Q1 公開会社が新株予約権の発行を決議する機関はどこですか?

A2 公開会社は、原則として取締役会決議のみで新株予約権を発行することができます(会社法240条1項)

ただし例外的に、①新株予約権と引換えに金銭の払込みを要することとせず、かつ、当該払込みを要しないことが新株予約権者に特に有利な条件であるとき、又は②有償で新株予約権を発行したとしても、その価額が新株予約権者に特に有利な金額であるとき、のいずれかに該当する場合(有利発行の場合)には、たとえ公開会社であったとしても、取締役会決議のみで新株予約権を発行することはできず、株主総会の特別決議を経る必要があります(会社法240条1項、238条2項、3項)。

補足事項

○有利発行に該当するのか否か

有利発行か否かは、新株予約権の価値と発行価額との比較により決まるものですが、金銭の払込みを要しない場合についても、そのこと自体が当然に有利発行に該当するものではなく、新株予約権の価値と比較してそれが特に有利な条件であると考えられる場合のみ、有利発行として扱われます。

○ストック・オプションとして役員・従業員に新株予約権を発行することは有利発行に該当しますか

ストック・オプションとして新株予約権を無償発行する場合においても、それにより本来会社が負担すべき金銭による報酬の額を低く抑えることができるのであれば、実質的な経済効果からして特に有利というわけではないため、有利発行として株主総会の特別決議は必ずしも必要ないと実務上解されています。インセンティブ報酬として付与される新株予約権は、その公正価値に見合う職務が今後提供されると期待し、評価したうえで付与されるものであり基本的に有利発行にならないと考えることが可能だからです。少なくとも、上場会社に一般的な合理的な内容のストック・オプションであれば、有利発行には該当しないであろうと考えられています(ただし、あくまでも各会社のリスクに基づく判断であることを前提としています)。

Q2 公開会社が新株予約権を発行する場合におけるその他の注意点はありますか?

A2 公開会社が取締役会決議のみによって新株予約権を発行する場合には、新株予約権の割当日の2週間前までに、株主に対して募集事項(新株予約権発行要領)を通知し、又はこれに代えて公告する必要があります(会社法240条2項・3項)。

通知又は公告の際には、取締役会の決議日と、その決議で定めた新株予約権の割当日との間に、必ず中14日間以上の期間が空くよう余裕をもって行ってください。

Q3 新株予約権の行使があった場合の登記申請期限を教えてください。

A3 新株予約権の行使日から2週間以内が原則です(会社法915条1項)。

とはいっても、実務上は、同月内に、複数の新株予約権者から個別に権利行使がされることもめずらしくありません。このような場合に、その都度、登記申請しなければならないとすることは非常に煩雑であるため、会社法は、毎月末日までの行使分を一括して登記申請することも許容しています。そして、この場合の登記申請期限は、当該末日から2週間以内で差し支えありません(会社法915条3項1号)。

そのため、新株予約権の行使があった場合には、遅くとも行使があった月の末日から2週間以内には登記申請ができるよう書類をご手配いただく必要があります。

Q4 会社は、自己所有の新株予約権を行使することができますか?

A4 会社法上、できません(会社法280条5項)。

Q5 会社所有の新株予約権を従業員に再付与することはできますか?

A5 1.会社法上、付与することは可能です。

   2.手続は、取締役会決議(※1)+当事者間での契約締結(※2)です。

   3.ただし、再付与を受けた従業員が税制上の優遇措置を受けることができるか否かといった税務面につきましては、顧問税理士等に必ずご確認ください。

補足事項

※1 会社所有の新株予約権を処分することは、通常の資産の売却と同様であるため、会社法上、別途の規定は設けられていません。もっとも、取締役会設置会社にあっては、重要な財産の処分として、取締役会の決議によらなければならない(会社法362条4項1号)などの一般的な制限には服します。

※2 契約書の内容は、当初発行の際の新株予約権割当契約書を基本としていただいて差し支えありませんが、やはり文章の体裁等の手直しは必要です。ご依頼いただければ当事務所にて確認いたします。

Q6 新株予約権の消滅事由を教えてください。

A6 新株予約権は、

 1.行使した場合(会社法280条)

 2.会社が消却した場合(会社法276条第1項)

 3.新株予約権として行使される可能性がなくなった場合(会社法287条)

に消滅します。

Q7 会社は、従業員や役員に付与している新株予約権を消却することができますか?

A7 できません。

   新株予約権の消却とは、新株予約権を消滅させることをいいますが、会社が消却できるのは、あくまでも自己所有の新株予約権のみであり、他人所有の新株予約権を、会社による取得を経ずに、強制的に消却し、消滅させることはできません。

Q8 新株予約権の行使期間が経過した場合、なにか登記が必要となりますか?

A8 行使期間の満了に伴い、該当の新株予約権につき抹消登記をする必要があります。

新株予約権の内容として行使期間を定めた場合、当該新株予約権は、行使期間が満了した時に消滅することになります(会社法287条)。

例えば、『2018年1月1日から2026年12月31日まで』と定められていた場合には、2027年1月1日に行使期間が満了することになります。

Q9 会社法287条の意味を教えてください。

A9 この条文は「新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったときは、特段の手続なく当該新株予約権が消滅する」ことを意味します(※1)。

   例えば、行使期間が経過した場合、新株予約権者がその有する新株予約権を放棄した場合、新株予約権の行使条件として「従業員が退職した場合には新株予約権が行使できなくなる」などと定めている場合において当該従業員が退職したことにより当該新株予約権の行使条件を満たす可能性がなくなった場合には、当該新株予約権は消滅することになります(※2)。

補足事項

※1 従業員が退職する都度、新株予約権が消滅し、当該新株予約権の数の変更登記の義務が生じしまうとなると、事務処理上の負担が大きくなってしまう企業もあるでしょう。このような場合においては、従業員が退職をする前に、会社があらかじめ当該新株予約権を取得する決議をしておくことも考えられます。

※2 従業員の退職=ほんとうに消滅?なのか、復職した場合はどうなるのか?といった新株予約権の消滅に伴う実際の判断につきましては、行使条件の定め方や、新株予約権割当契約書の内容により総合的に判断する必要があります。ご依頼いただければ当事務所にて確認いたしますのでお気軽にお問合せください。

Q10 旧商法時代に発行された新株予約権に、会社法287条の適用はありますか?

A10 会社法附則2条により会社法287条の適用があります。

(会社法は旧商法時代に発行された新株予約権にも適用があります。)